これからの大学進学について考える
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これからの大学進学について考える

更新日:2023年2月18日


「大学教育にも携わってもう15年以上経ちました」


子供たちが幼い頃は、長期休みに一緒に休める仕事だからと思い、大学での非常勤講師の仕事を始めました。今では青年期の若者たちと関わることで、その考えに触発されて刺激を得ることを楽しみに教えています。


「英語を教えているのですか?」とよく聞かれるのですが、英語は国立大学の一般教養科目として教えています。


英語以外にも私立大学では韓国語を教えています。韓国語は抽選が出たり、新クラスが増設されるほど人気です。


また、某経済系学部では英語で経営に関する科目を教えています。こちらの科目、本年度受講生は10人全員、なんと留学生(アメリカ、韓国、台湾、中国、ブラジル、モンゴル等)だけでした。英語科目は地方大学の日本人学生には敬遠される傾向があります(日本の学生も毎年来てほしいです)。



「大学を取り巻く環境は変わっている」


すでにお子さんが大学に進学されているご家庭もあるかと思いますが、今後進学する上で、どこの学部に進めばいいのか、大学に行く必要があるのかないのか等、この記事を通じて考えるきっかけになればと思います。


(1) 工学部が定員を増やしている 多くの大学で少子化の流れに合わせて、各学部の定員を減らしている中、工学部だけは定員を増やしています。特に電子情報系です。IT業界における人材不足が影響しています。中信地区にある某大手メーカーでも、IT系人材の不足が企業の成長にも大きく影響しているそうです。大学のランキングに関係なく、プログラミング等を学習した経験のある学生がIT系企業に応募すると、複数企業から内定がもらえたとの経験談も聞きます。


(2) 数学専攻卒業者の人気が高まっている

皆さんが普段お使いのポイントカードやアプリの開発には、多くの数学者が携わっています。「一昔前までは、数学専攻の就職先は教員ぐらいしかないとバカにされていたこともありました」と某大学の理学部の先生がおっしゃっていましたが、今では数学専攻の卒業生は、開発系の企業からたくさんオファーが来るそうです。「新しいものを産み出す推進力のある人材」として、数学を得意とする人の力が求められているんでしょうか。

  

(3) 文系学部が減っている

教育学部、人文学部、経済学部などは、年々定員数を減らしています。少子化、事務職の減少、機械による作業効率化などにより、多くの仕事が消えています。数十年前まではヨーロッパ言語を教える大学が多かったですが、現在では英語以外の科目は大学に専任教員を置かないケースもあります。国からの予算も少ないため、なかなか科研費の獲得も難しいようです。

芸術や文芸を専攻する学生の中には、最初から就職を志すのではなく、創作家としての道に進む人たちもいます。一方、大学としては卒業後の進路実績を示すことによって、その価値が問われる傾向にあり、就職率や進学率が上がらない学部には人が集まらず、どんどんと定員を減らしている傾向にあります。(私自身は、文系大学生から多くの刺激を得ており、彼らに期待しています。)


(4) 語学は就職で有利になる

近年大学卒業時にTOEIC900点以上を獲得する学生の数は増えており、企業でも英語力のない応募者は選考対象外としている場合もあります。特記すべき資格や経験がない場合でも、TOEI650点以上がある場合には、その語学力を生かして海外営業、人事教育、経営管理、研究開発などに携われる可能性があります。また、日本語のできる海外留学生たちのニーズも非常に高くなっています。


(5) 農学という分野の注目度

人の基本的ニーズとして、「食べること」があります。農学は植物、動物、環境政策などあらゆる分野に関連している学問であり、その汎用性の高さから農業以外にも食品系、化学系、製薬系、畜産業、商社、園芸業、外食産業などあらゆる分野に進む人がいます。


(6) 理系は大学院進学率が高い

国公立大学を卒業する理系学生は、半分以上が大学院に進学すると言われています。ゼミでの研究を進めるのに4年だけでは足りないこと、理系は大学院卒を求めている企業が多いこと等がその背景にあります。信州大学を一例にすると、工学部、理学部、繊維学部の学生は大学院進学率が高いです。


(7) 医学部に入学する女性が増えている

私自身これまで何度か医学部の英語を担当していて顕著に感じているのが、15年前には1クラス数名だった女子学生の比率が圧倒的に伸びているという点です。一昨年担当したクラスでは、女性が4割程度にまで増えていました。

「女性の能力が増した」というよりも「女性の入学を妨げる要因があった」ことに理由があります。そのため医学部では、近年合格者の男女比率を開示するように求められています。2021年度は初めて女性合格者が男性合格者数を超えました。https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/igakubu-test-gyakuten


(8) CG、アニメ、Webなどデジタルデザイン系の専門職大学の人気が高まりつつある

オンラインゲームやeスポーツ人気、NFTなど仮想空間での絵画取引、Netflixなどデジタルコンテンツの需要の高まりと共に、デジタル系の専門職大学が台頭してきました。地元の信州大学でも、新たに「情報学部」を設立する動きがあります。美大、芸大でも視覚デザインなどの学科が人気で就職もしやすい傾向にあります。 現在の若者たちに人気の就職先として、任天堂、ソニーなど老舗の企業があります。その他、スクエアエニックス、LINE、DeNA、AbemaTVなど情報産業の台頭と共に急速に成長している企業が人気です。この分野で働いている方々は、数年間働いた後に転職や独立する等、企業の枠にはまらずに仕事をプライベートと両立させやすい等、今後この業界はZ世代に支持される分野でしょう。


(9) 高卒よりも就職でハードルが高くなるケースも

高校卒業時に、希望する就職先が見つけられず大学や短大に進学した学生たちの話をよく聞きます。その後、希望する就職先が見つかればいいのですが、特に就職先を見つけるのに苦労するのが、短大卒の男性、4年制文系大学卒の女性に目立ちます。

短大男子の就職先斡旋に苦慮していることは、指導者からも聞かれる言葉です。また、4年制大学を卒業した女子よりも、短大卒女子の方が賃金を安く設定して雇用できることから、長野県などの中小企業の多い地域では、短大女子の方がニーズがあります。

性別に関係なく、簡単な経理や事務作業などは、経営ソフトや決済システムの普及が進んでいます。単純事務職は今後どんどんなくなっていくことは明確です。


(10) 消えた大学、消えていく大学

「就職率が低い」、「明確な資格が取得できない」、「人気がない」、「資金がない」。そんな大学、学部、学科ななくなる傾向にあります。長野県内にある私立大学も、ほとんどの大学でいずれかの学科が定員割れしています。安定して倍率をキープできているのは医療系ですが、看護大学の数も多いため、少子化の煽りを受けて今後どうなるかは分かりません。


(11) 見直されている専門学校

NHKクローズアップ現代でも紹介されていましたが、日本食ブームにのって寿司職人やパティシエとなり海外で活躍しているケースがあります。賃金の上がらない日本から脱出する方法として、手に職をつけ、より「稼ぎやすい」海外へ進出する新たな仕事の見つけ方です。また、美容やファッション、映像制作なども日本の繊細な技術を買われて海外進出するなど、言語以外で勝負できるスキルをもって世界で活躍する人が専門学校出身または高卒というケースも稀ではありません。


(12) 留学という選択肢

円安傾向にある中、先進国への留学者数は減っていますが、日本よりも安価に大学や語学留学ができる先として、マレーシアやフィリピンが人気です。特にマレーシアには、小学生など若年層から親子で留学先に出かけています。海外の学校で学びながら英語やグローバルな知識を身に付けて、放課後は日本人向け学習塾に通い日本語を学ぶ「親子留学」が盛んです。海外の高校を卒業したら、「帰国子女」枠で日本の大学に入学するか、海外の大学に進学することも可能です。


先進国へ進学する一例として、カナダ、オーストラリアなどの比較的治安の良い英語圏に高校生またはワーキングホリデーとして出かけて、滞在実績や就職実績を作り、永住権を取得することを前提で、大学またはコミュニティカレッジに進学している場合もあります。



最後に:今を生きる子供たちを取り巻く環境の変化はとても大きい


大学生と話していると、将来に対するビジョンがはっきりしている子もいれば、何をしたいかわからず「とりあえずもう少し遊びたい」、「とりあえずいける大学に来た」、「偏差値に合わせて学校を選んだ」と話す学生もたくさんいます。


高校も大学も義務教育ではありません。大学に進んだことで、将来進む道が明確になり、希望の職に就き充実した社会生活を送り、素敵なパートナー、良き朋友に出会えた人がいます。一方で、無理して大学に入り、奨学金を多額に借りてしまい、就職後は返済が大変で所帯を持つこと、仕事に追われて自由な時間を得ることが難しくなる場合もあります。


…自分は一度大学を卒業した後に就職し、25歳で海外の大学院に留学しました。某金融系企業でバイトしながら、どうにか大学院で単位を落とすことなく卒業することができました。一方、私は中学生のころ英語が苦手教科だったので、留学でも苦労しました。もっと早くから英語を学んでおきたかったと、その時思いました。


子供たちの将来を占うことはできませんが、子供と話し合いながら(←これが重要だと思います)、将来に向けた道筋を立てて、1か月、一学期、一年ごとの短期目標から設定してみるといいかもしれません。まずは子供たちには、心身共に健全であってほしいと願います。


少しでも皆様の子育てにおいて、参考になれば幸いです。(林)

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